それは世界の終末か それとも始まりか
【愛の逃避行】
「はあぁぁ。何やってんだろうな? 俺」
そう言って『ネオアトランティス』と呼ばれる大地に少年は寝転がった。
不毛の大地。
背中に、とがった石が刺さったらしく、少年は、顔をゆがめ、それをどけた。
少し癖毛で、赤茶けた不ぞろいの髪が、砂混じりの風に揺れる。
まだ、顔つきに幼さの残る少年の瞳は、同年代の少年の瞳以上に大人びていた。そして、その瞳は翡翠色に輝いていた。
「後悔しているの? ブルウ?」
と、少女が、車椅子の上から少年ブルウの顔を覗き込み、聞いた。
少女のふわりとした柔らかい髪が、ブルウの頬に触れた。金色の髪から甘い香りが漂っている。ブルウは、ほんの少し頬を染めたが、すぐに笑顔に戻り、車椅子に座る少女の前に膝立ちになった。
「後悔じゃなくて、反省ですよ。セラお嬢様」
「変よ、そのしゃべり方。ブルウじゃないみたい」
少女セラは、愉快そうに笑った。
セラは、ブルウよりも少し大人っぽく見え、肌は少し青白いが透き通っている。そして、瞳は青く、潤い含む花のつぼみのような唇。まるで育ちのよさが、全身を包みこんでいるような少女だ。
ブルウは、セラの笑顔につられるように微笑んだ。
(しばらく会わないうちに、また綺麗になった)
と、ブルウは思った。
(このセリフを口に出すことが出来れば……)
初恋の人の変わらない笑顔を見て、ブルウの胸は、甘く締め付けられる。
(新しい技を客の前で披露するときより、ドキドキしてる)
「私は、嬉しいのよ? ずっと、外の世界を見てみたいと思っていたから」
「う〜ん。そういってもらえると嬉しいけど。すぐにお迎えが来ると思うよ? 『ヴァリアック家』と双璧をなす資産家一族『スミス家』の若き党首にして、このネオアトランティスで多大な影響力をお持ちの『スミスカンパニー』社長アレックス・スミス氏の妹御、セラ・スミス様」
「じゃあ。帰るの?」
セラは寂しそうな顔をした。
(俺が見たいのは、この顔じゃない)
ブルウは、セラの背後に回り車椅子を押し出す。
「行こう。セラ」
荒れた大地に激しく揺られ、セラはそれでも目を輝かせて振り返った。
「どこへ行くの?」
「え?」
一瞬、考え込んだブルウは、ふと、セラの意味ありげな笑みに気づき、それが幼い頃の二人の合言葉であった事を思い出した。そして、セラに笑いかけ、
「そりゃあ勿論!」
その言葉を合図に、二人は笑いあい、声を合わせた。
「楽園を探しに!」
【カンパニー】
「逃げた? だと」
若い男は目の前の男を睨み付けた。その金色の目はさながら蛇。
凝ったデザイン制服を着たカンパニーの社員は、思わず息を呑み、答えた。
「い、いえ。連れ去られたのです。アレックス様。あの、あなたが連れてこられた少年が、セラ様を」
「セラのことは、いい」
「はっ?」
アレックスは、椅子から立ち上がる。
薄紫色のラインの入った白い制服、スカーフもラインにあわせて薄紫色。ズボンは白で、靴も磨かれた白い革を履いている。
大きなガラス窓の前に立ち、アレックスは、眼鏡を押し上げた。
「報告よりも先にするべきことがあるだろ?」
落ち着いた声。だが、社員は、ビクリと体を震わせた。アレックスは、表情を変えずに言った。
「ブルウを連れ戻せ。無傷でだ……。抵抗するようなら、セラを人質に取ってでも……」
「なっ……?」
セラが、彼、アレックスの妹であることを知っている制服の社員は、困惑と驚きを顔に表す。
そんな社員を見てアレックスは、眉間にしわを寄せ、言った。
「何をしている? さっさと行け」
「は、はい!」
姿勢をただし敬礼した制服の男は、慌てるように出て行った。
無駄に広い社長室に一人残されたアレックスは、窓の外から街を見下ろす。
大小さまざまなビルが立ち並ぶ、どこにでもあるような街だ。似たような住宅、似たような店舗。まったくセンスのかけらも見当たらない、つまらない街。
「この街は、失敗作だな」
アレックスは、再び仕事机の前に腰を下ろし、見惚れるほど美しい金の髪を掻き分けた。
憂いを含んだ表情。だが、すぐに顔を引き締め、眉間に力を入れる。
「この国も……失敗作だ」
【夢】
まだ生まれたての大地。小さな芽がほんのわずかに確認できる。
「ここが、我らの楽園となる地なのか?」
と、その男は言う。
空を見上げた。
どこでも空は同じ……。というわけでもない。
この地の空は、少し黄みがかり、薄く靄がかかっているように、ぼんやりとしている。
男は、ふらり、ふらり、と、歩き出す。
「何だ? 何かが呼んでいる」
遠くに山脈が見える。茶色い峰峯が……
男は、突然ピタリと、歩を止める。
「ここだ」
男はおもむろに、地を掘る。
いつしか日が沈み、月が昇り、また沈み、曙を迎える。
そして、また、夕暮れ、月が輝き、また消え、朝日が射す。
男は、飲みもせず、食いもせず、憑かれたように、ひたすら地を掘り続ける。
それから、幾日過ぎただろうか。ようやく、男は顔を上げた。
手には、水晶のような石のかけら。
男は、石に見入る。
「私を呼んだな。……いや、私の血を選んだのだな?」
男は、微笑んだ。
「かけらは三つ」
ふと、目が覚めた。
あまり綺麗とはいえない、小さなホテルの一室だ。
ブルウは、ゆっくりと、身を起こす。
「また、あの夢……。物心ついたころから見る、あの……」
ベッドから出、窓の外を見る。
空が白みかけていた。
薄い朝靄の中、雑居ビルがかすかな明かりに浮かぶ。
ふと、部屋へと視線を戻す。ベッドは二つあるが、セラは隣の部屋。
ブルウはため息をついた。
「失敗したな……。大事な商売道具を、スミスカンパニーに置いてきた。
【ネオアトランティス】
「俺や君たちの住むこの大地は、初めからあったわけじゃない。俺も知らない、見たことも無い過去。星に異変が起こった。大きな地震だ……。世界中の人が恐怖するほどの……。ある地は沈み、崩れ、波に呑まれた。でも、大西洋と呼ばれている海に、土地隆起あり、新しい大地が生まれた」
「分かった! それが、ネオアトランティスだ」
一人の小さな少年が、目を輝かせながら言った。
ブルウは、微笑む。
「そう。後に、ネオアトランティスと名づけられる大陸だ」
整備された、だが、少し雑然とした街の片隅で、歩道の段差に腰掛けて、ブルウの授業を受けている幼い子供たちは、みな、黒い髪に黒い瞳をしている。
ここは所謂、日本人街と呼ばれる街だが、この雑居ビルの目立つ普通の住宅密集地には、あまりその国の特徴は見受けられない。
一人の少年がブルウに聞いた。
「他の大陸はどうなったの?」
ブルウは少年に微笑みかけ頷いた。
「うん。あの大地震で、他の大陸も随分打撃を受けたけどね、それでも、形があったんだ。それでね、すぐに、というわけには行かないけれど、大きな都市は、着々と復興していくんだ。それと同時に、このネオアトランティスに移住する人々も出てきた。それこそ、いろんな国から」
「私たちの祖先ね」
頭のよさそうな少女が、大人びた声で言った。
「そう。ホントはね、勝手に移り住むことは、どこの国でも禁止されていたんだけど、だれも、彼らの情熱は止められなかったのかな?」
ブルウに注がれていた子供たちの熱い視線が、不意に、ブルウの肩を超えた。
彼らの注目を奪ったのは、何なのだろうか。
振り返ると、
「あ……セラ」
朝の柔らかな光の中で、セラは香るような笑顔を見せていた。
「ごめんセラ」
言いながらブルウは、セラのもとへ駆けていく。
セラは、当たり前だが、昨日と同じ服装をしている。首周りの大きく開いた、だが、上品な青い長袖の服、スカートも上品に白いロング、足元は、女性らしいデザインの青い靴。
「早く目が覚めたから、ちょっと散歩のつもりだったんだけど、つかまっちゃって」
弁解するようにブルウがそう言うと、セラはまた笑った。
「ううん。私のほうこそ、邪魔しちゃったんじゃないかしら?」
セラは優しい眼差しを子供たちに向けた。
視線を投げかけられた子供らは、みな一様に頬を赤らめ、身を硬くしていた。
「そういえば、ブルウのお母様は、教師だったわね」
セラが言った。
朝食を済ませた二人は、日本人街を出た。
二人が今歩いているのは、どこまでも続いていそうなアスファルトの道。『ネオアトランティス国道一号線』だ。
周りは、数えるほどの雑草しか生えていない荒れた土地だが、ぽつぽつと、生命力の強い木が、力強くたっている。
セラは、車椅子の上から笑顔で振り返った。
「ねえ。さっきの話の続き聞かせて?」
ブルウは、笑顔で頷く。
「そう、この新しい大陸への移住者が現れたところまで話したよね。……そこで、国連という組織が、その所有権を主張してね、この土地を購入すれば誰でも移住できるようになった。でも、まだここは国としては認められていなかったんだ。ああ、そうそう、この時その国連がネオアトランティスの名を付けたのだけど……。で、生まれたての大地は、けして、豊かな土地でもなかったので金を出してまで移住したいと思う者は少なかったから、移住者は減ったんだよ。でもね、あるときイギリスの名門家であるヴァリアック家と、アメリカのIT長者のスミス家がネオアトランティスに移住してきたんだ」
セラの目が輝いた。
「スミス家! それ私のおじい様だわ。でも、ITって、何かしら?」
ブルウは首をかしげる。
「さあ? 俺もよくわかんないけど、とりあえず、その時からお金持ちだったんだね。……そう、その超資産家の両家が、移住して後、大小さまざまな企業も乗り込んでくるんだ。みな、その頃の世に嫌気が差していたらしいね。で、異常なほど早く、この大陸は開発されていく。それをネオアトランティスの第一変革期と言うんだけど、今俺たちが歩いているこの道路も、その頃作られたんだ」
ブルウは、国道の地平線に向けて指をさした。
「そう、何でもその頃に作られているのね」
セラが、ぽつりと言った。
口ぶりからすると、セラも少しはネオアトランティスの歴史を知っているらしい。
ブルウは続ける。
「そして、二度目の世界的大地震が起こる」
「そこからは知っているわ。この大陸以外の土地土地が、大きな地殻変動を起こした。そして、世界は破滅した」
ブルウは少し深刻そうに頷いた。
「うん、この未完成の国『ネオアトランティス』だけが取り残されたんだ。これが、ネオアトランティスの第二変革期」
「へ〜。勉強になるね。ゆう?」
「そうですね〜。キョウ様」
「!」
突然、間近に聞こえた声にブルウは心臓がはねるほど驚いた。
いつからいたのだろうか? 見知らぬ男女が、ブルウを挟んで歩いている。
「えっと。ど……どちらさまで?」
ブルウの問いかけに、男女はにっこりと微笑んだ。
【妙な旅人】
突然現れた二人に、ブルウは見惚れた。
穏やかに微笑んでいる男は、長身で、手足もすらりと長く、淡い栗色の髪は絹糸のようで、整った目鼻立ち、透き通る肌……。まるで、一つ一つが、上等の高級品で出来ているような人間だ。
その男は、首に白と水色のボーダー柄の大きなスカーフを首に巻きネクタイのように胸元にたらして、大きく前の開いたベージュのカーディガン、インナーは、黒のおそらくノースリーブで、薄桃色のズボンに足元はスニーカー、と、カジュアルな服装だが、全てが上質なもので出来ている。
(男に対する表現じゃないかもしれないけど。なんか、水晶みたいな人間だ)
と、ブルウは思った。
女の方は、いたずらっぽい笑みを浮かべている。小柄で、華奢な体。短い前髪に肩を少し越すくらいの長さの髪、その艶やかさは、カラスの濡れた羽。瞳も黒く濡れ光り、大きな目。白い肌に真っ赤な唇は、たとえるなら、雪に咲く椿花。
その女の服装は、白いレースとフリルのAラインのワンピース。また、長いフリフリの靴下を履き、やはり白の編み上げブーツ。
(こっちは、まるで、呼吸する人形だ)
「変わった格好しているのね」
女がしゃべった。
「……え? ああ」
返事するまでに間が開いてしまった。ブルウは慌てて身分を説明する。
「俺は、大道芸人だから」
変わった。と、表現されても当たり前の、いや、そう思われるための服装を、ブルウはしていた。
ジッパーのついたハイネックの白いジャケットは、腰より上の短い丈。その襟の先にひとつずつ赤い玉がついていて、その赤い玉をつなぐように首周りをぐるりと赤いラインがつないでいる。
服の裾にも赤い横ラインが走っていて、腕の付け根の部分にはふくらみがある。胸元でゆれる ジッパーの金具は、金色で大き目の二等辺三角形。
その下は、ダボっとした薄いベージュのオーバーオール。靴は黒い紐靴だ。
「へ〜。大道芸人! だから、いい体格しているんだね」
にっこりと微笑み、ブルウの左隣を歩く男が気さくに肩をたたく。
「あ……」
仕事柄、金持ちを相手にすることも多いブルウだが、こうも、高貴な雰囲気を持つ人物を目にしたのは初めてだった。
「あの。……どちらさまで?」
緊張を隠しきれない声で、ブルウがたずねると、男はまた微笑む。男は柔らかで凛とした空気を自然と纏っていた。
「俺の名前は、キョウ。そっちにいるのが、ゆう。ただの旅人だよ」
セラも、二人を不思議そうに見ている。
全くただの旅人には見えないのだ。
ゆう、という名の女は、軽やかなステップで、キョウの脇にすべり込み、いたずらな笑みで訊ねる。
「そっちも旅人? もしかして愛の逃避行とか?」
ふいにブルウとセラの目が合った。
その時ブルウは、浮遊感すら感じる甘い胸の高鳴りと、軽いめまいに襲われた。
「ま、まさか。そんな上等なものじゃ……」
「いたぞー!」
しどろもどろと答えるブルウの声を、かき消すような、大きな声が遠くから響いた。同時に馬蹄の音が近づいてくる。
振り返ると二匹の馬が、ブルウたちの目の前で、砂埃を巻き上げて止まった。
それぞれの馬に乗っていた二人の男が下馬する。
「スミスカンパニーの軍人だわ」
セラが言った。
二人の男は、帯剣し緑の軍服を着ている。一人は口髭で、もう一人は長髪だ。
「ああ! この二人、追われているのだわ。キョウ様」
ゆうが、わざとらしい口調で言った。
「そう、みたいだね。怖そうな軍人さんだ。巻き込まれるのもいやだし、こんなときは、ねえ? ゆう」
「そうです! 逃げちゃいましょう!」
と、なんだか、ゆうと、キョウは楽しげな声でそんなやり取りをしている。
ブルウが振り返ったとき、二人の姿はもうそこには無かった。
「え! 消え……た?」
「動くなよ。ブルウ」
きつねに、つままれたような顔をしているブルウの名を、口髭の軍人が呼ぶ。ブルウが振り向くと、二人の軍人はすかさず抜刀した。
セラは、慌てて車椅子の車輪を手でこいで軍人の前に出る。
「待って、違うの。ブルウは……」
チャキ……
セラの喉もとに剣が突きつけられた。
「え?」
その驚きの声は、セラとブルウ、二人の口から同時に出たものだった。
【旅は道連れ】
「ど、どういうことだよ? セラはアレックスの、お前らの社長の妹だぞ?」
セラの喉もとに剣先を突きつけている口髭の男は、眉ひとつ動かさずに言った。
「その社長のご命令だ。お前が抵抗すれば、セラ様に傷がつくことになるぞ?」
「なっ! 嘘だ、アレックスはそんな……」
ブルウはハッとした。
驚き、恐怖、失望が、綯い混ぜになったような表情。セラはそんな顔をしていたのだから。
ブルウは、強く唇を噛む。
(あんなところにセラを戻せない!)
「……観念したか」
地にへたり込んだブルウを見て、口髭の男が言った。
セラの喉もとから剣先が離されたとき、ブルウは握った小石を素早く投げつけた。小石は空を切る音を立て口髭の男の剣を握る手に命中し、男は思わず剣を落とす。
すかさず、ブルウは、男の足元に転がり体当たりをして剣を拾い立ち、左手で構えた。
「くっ……」
口髭の男が一歩後退したとき、ブルウはフェンシングのように剣を突き出す。
わざと、的から左にずらされた剣は、男の右頬をかすったが、当たり前に軽く避けられる。その動きを見越していたかのように、ブルウは、すぐさま剣を引き、右拳を口髭の男の腹部にねじ込んだ。
「ぐっ……」
男はそのまま地に突っ伏す。
その様子を、未だ何が起こったのかわからない様子で見ていた長髪の男は、ブルウと視線が合うと顔色を無くし、慌てた様子で馬に飛び乗り逃げ帰った。
「あ……おい。相棒置いていくのかよ」
ブルウは倒れている口髭の男を一瞥した後、セラを見た。
セラは笑顔を作ったが、ショックが隠しきれず少しゆがんだ笑顔だった。
その笑顔がブルウの胸を強く締め付けたのは、言うまでも無い。
「お見事!」
ブルウがセラにかける言葉を捜していると、上方から掛け声とまばらな拍手。
見上げると木の上に、消えたはずのキョウと、ゆう、がいた。どうやら高みの見物をしていたらしい。
キョウは、ゆうを、お姫様抱っこし軽やかに地に降り立つ。
腕から下ろされた、ゆうは、にんまり笑い言った。
「さ〜すが、大道芸人!」
「あ……あなたたちは、一体?」
「さっき自己紹介したけど?」
ゆうは、腰に手を当てて言う。
「いや、そうじゃなくて」
「だ・か・ら・旅人よ。ねえ〜キョウ様」
ゆうは、キョウに語りかけるときだけ甘い声になる。
キョウは、にっこりと笑む。
「そ。ところで君たち、俺たちと一緒に行かない?」
思いがけないお誘いに、ブルウとセラは顔を見合わせた。
「何悩んでんの? 悪い話じゃないのに。私たち天蓋つきの荷馬車を持っているのよ?」
ゆうが、そう言うと、キョウが空まで響く指笛を吹いた。と、どこからともなく、白馬が荷台を引いて駆けてくる。
立派な荷馬車だ。
「徒歩でどこまで行こうとしているのか知らないけどね。そいつ、もう目ぇ覚ましているよ」
キョウに指摘され、視線を落とすと、口髭の男が憎々しげにブルウを睨みつけ、立ち上がろうとしていた。
「うっ……」
「行くよ!」
声に振り返ると、キョウは御者台に乗り、ゆうは荷台に乗り込みセラとブルウに手を差し伸べていた。
旅は道づれ世は情け。とは言うものの、登場があまりにも不自然なこの二人の後を、軽い気持ちでついて行ってもいいものなのだろうか?
だが……
あてどのない旅の途中だ。渡りに船と、ブルウは車椅子ごとセラを抱え、引き込まれるように荷馬車に乗り込んでいた。